美容師の欲望 4
時刻は午後7時24分。外はすっかり暗くなり、肌寒くなってきた。
スンと空気を肺に取り込むと、微かに秋の香りがする。
秋の香りとは何か。そう問われると困るのだが、勿論駅周辺には自動車が多く、
通勤帰りのサラリーマンを待ち伏せる為にエンジンをフル回転させているタクシーが多い為、
辺りは排気ガスで充満している。しかし、そんな悪臭の中だからこそ、冷やかで澄んだ空気が
一際目立つのだ。私はそれを秋の香りと表現している。毎日澄んだ空気に触れているのなら、きっと秋の香りなんて表現しないだろう。
私は一定のリズムで駅のホームに向かう。
後方から、カツカツと尖った革靴の音が私の耳を通り過ぎる。はたまた、何かに追われるかの様に、旋風が私の肌を刺激する。
何に焦っているのだろうか?電車は決まった時間にしか出発しないというのに。
7時35分発。後2分も余裕がある。それ以降早くに着いたとしても、結局は待たなくてはならないのに。
見慣れた光景で、無色の勤勉の賜物だろう。
私がホームに着くと、同時刻に電車も到着した。私は足を止める事なく、特急に乗り込んだ。