nanashi kanaのブログ

nanasikanaです。日常的に気付いたことや、思った事。また、読書感想を主にブログで発信していこうと思います。

美容師の欲求 3

その後、5人のお客の髪を切り、時刻は6時を過ぎていた。

 

研修生達は閉店の準備を進めていた。

 

私は明日の予約リストを確認し、客の名簿を閲覧していた。

 

前回どの様な髪型を注文してきたのかを確認し、さっと、名簿を棚に戻した。

 

私以外の従業員は何やら談笑を楽しんでいる。昨日のテレビ番組の話や今日来店した変態な客の話。

 

何が楽しいのかよく分からない。そんな暇があるのなら研修生の閉店作業を手伝って欲しいものだ。

 

私は手が空いたので、床の髪をほうきでまとめていた。すると、一人の女の研修生が話しかけてきた。

 

「三島さん、私がやりますよ!三島さんは休んで下さいよ」

 

年齢は10代後半、若さが体臭に乗せて溢れ出していた。「いや、やる事ないから。別に大丈夫だよ」

 

半ば強引に私のほうきを奪い、「いやいや、三島さん今日は6人もカットしてるのですから疲れてるに決まってますよ!」

 

「はは、長年勤めると慣れるものだよ。本当に大丈夫だよ。申し訳ないし」

 

「そんなもんですかねー、じゃ、この後の講習!三島さんが教えてくれませんか?私、三島さんのカット技術凄いと思ってたんですよ。

あんなにも正確にカタログ通りの髪型にカットできる人は三島さんぐらいですよ!お願いします!」

 

嗚呼、大変めんどくさい。私は早く帰りたいが為、ほうきで髪をはいでいるのに、どうして講習をして帰る時間を遅らせないといけないのか理解出来ない。

 

「嗚呼、今日は用事があるから、ごめんね」心にもない言葉を使った。

 

「ええ〜残念です。ではまた今度お願いします。」「はいはい、今度ね」嘘である。仕事が終わった後に、無銭の講習をどうしてしないといけないのだろうか。

 

この講習を請負っていないのは私だけである。他の方は自発的に講習を請負っている。

理由は2つ。一つ目は「出世の為」。歴代の先輩方も後輩に熱心に講習をしていたらしく、その馴染みで後輩が出来たら講習をしないといけない風潮になっていた。後輩からの尊敬が出世に繋がるのだ。二つ目は「可愛い女と会話したい」である。実際、美容師界は可愛い女(見た目に気を遣っている女)が多い。業務中は女従業員と楽しく会話出来ないが、講習中は一対一になる為、思う存分会話を楽しめるらしい。また、お持ち帰りのチャンスに繋がるとか。

 

私は支度を済ませ、帰った。

 

f:id:aaananasikana:20200809104121p:image